2016/09/10
シェアハウスの一冊『バイバイ、ブラックバード』伊坂幸太郎
[ シェアハウスの本たち ]
主人公の星野くんは、五股している。
本人によると、浮気とは違う。らしい。
どの女性が一番大切かわかっていないのだから浮気よりも悪質だ、と本人は考えている。
星野くんとしては、好きでこんな状態になっているのではなく、親しくなりたいと思う女性と一緒にいたら自然とこうなっていた、ということらしい。
さらに、星野くんは借金まみれであり、二週間後には「あのバス」に乗せられ、どこかへ連れて行かれてしまう。
星野くんは、「あのバス」に乗る前に、交際している五人の女性たちにちゃんと別れを告げたい、と懇願し、それはなぜか簡単に承諾してもらえるのだけれど、順番に女性たちに会いに行くことになる。
星野くんが逃げ出さないように、毒舌かつ超巨体の女性、繭美が監視しつつ同行し、別れの行脚がスタートする。
別れ話の中で、それぞれの女性との不思議な出会いや思い出が語られたり、新しい事実が判明したりする。
当然文句を言ってくる女性もいるし、案外あっさりと別れを受け入れる女性もいる。
繭美は、そんなゴタゴタを見るのが大好きで、面白がって笑っていたり、さらにゴタゴタさせようと色々な介入をしたりする。
ただ、単純な悪役としては描かれておらず、確かにその通り、と思ってしまう発言も多い。
星野くんはそれぞれの別れ話の中で、たいてい一つはわがままを言う。そして、繭美は当然文句を言うけれど、結局はわがままを許してくれる。
そのあたりが、星野くんの不思議な魅力の一つとして描かれていると思う。
別れが辛いのも、「あのバス」でどこかへ連れて行かれてしまうのも、自業自得と言えるけれど、星野くんはなぜだか憎めないし、むしろ惹かれてしまう存在なのだ。
だから、僕も、「くん」を付けて呼んでいる。
そんな不思議な魅力によって最後に起こる出来事。
そのラストの三行がかっこいい。
***
ちなみに、この小説は、太宰治の未完の小説『グッド・バイ』へのオマージュ作品となっている。
当初は、その続きとして書かれる予定だったけれど、『グッド・バイ』の設定だけを踏まえた上で、まったく新しい物語をつくることになったらしい。
『「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために』には、この小説が生まれるまでの話や、太宰治の『グッド・バイ』も収録あり。
最後まで読んで頂きありがとうございます☆